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急性虫垂炎(「盲腸」という言い方でよく知られているポピュラーな疾患です)の手術につきましても、長津田厚生総合病院では、腹腔鏡手術で行うことが多くなりました。
急性虫垂炎(盲腸)とは

虫垂は大腸の始まりの部分である盲腸から突出し盲端となる腸管の一部で、通常右下腹部に存在します。正常な虫垂は、太さは2~3mm、長さは3~4cm程度で、ヒトの虫垂は退化していてほとんど何の働きもしていません。
この虫垂に炎症を起こすのが急性虫垂炎で、「盲腸」と呼ばれることもあります。急性虫垂炎の原因は様々で特定出来ない場合も多いのですが、異物や固まった便が細い虫垂の内腔に詰まることで生じることもあるとされています。
急性虫垂炎(盲腸)の症状
腹痛、発熱、悪心、嘔吐、食欲低下、下痢などがみられます。
腹痛は、まず臍の周りや心窩部(みぞおちのあたり)が痛くなり、時間の経過とともに右下腹部に痛みが移動する例が多く、さらに炎症が進んで周囲に波及すると下腹部全体が痛くなります。熱は37℃から38℃程度が多くみられます。
急性虫垂炎(盲腸)の診断

急性虫垂炎の診断は、医師の触診、血液検査、腹部CT検査、超音波検査などで行います。
典型的な腹部の触診の所見としては、右下腹部を押さえたときに痛みを感じ、炎症が周囲の腹膜に及ぶと反跳痛(腹部を押さえてから素早く手を離した時に生じる痛み)を感じるようになります。
血液検査では、虫垂炎に特有の所見ではありませんが、白血球数が増加し時間が経過するとCRPという炎症の程度を表す数値も上昇してきます。
腹部CT検査や超音波検査では、肥大した虫垂が描出され虫垂の周囲に炎症があることで虫垂炎と診断されます。虫垂がやぶれることにより、膿瘍(膿のたまり)を形成していることもあります。
しかし虫垂炎に特有の症状や検査所見を示さず、正確な診断が困難なこともあります。特に大腸憩室炎などは虫垂とほぼ同じ部位で起こる事があり、この場合には虫垂炎か憩室炎かを正しく診断する事はきわめて困難です。
最終的に手術をしてお腹の中を見ないと本当に急性虫垂炎かどうかの診断がつかないこともあります。
急性虫垂炎(盲腸)の治療

炎症の軽い虫垂炎の場合には抗生物質の投与により治癒することが多くあります。
ただし、一度治ってもぶり返す患者様もいるため、状況に応じた治療を選択する必要があります。
ある程度進んだ虫垂炎は薬で治すことが難しく、外科的に虫垂を切除する必要があります。
薬で治療出来るか手術が必要かどうかは、お腹の痛みの程度、血液検査での炎症の程度、CTなどの画像診断の所見などから総合的に判断します。
手術を行う場合には、診断のついたその日に緊急手術として行う事もありますが、数日間は抗生物質の投与で経過をみてから手術を行うこともあります。
急性虫垂炎(盲腸)の手術

手術は虫垂を根元で切って切除する虫垂切除術を行います。虫垂周囲の炎症が非常に高度の場合には、虫垂を含めて盲腸を切除したり腸の一部も切除したりする場合もあります。
虫垂が破れて腹膜炎になっている場合や膿瘍(膿のたまり)がある場合には、お腹の中を生理食塩水という水で出来るだけ綺麗に洗い、最後にドレーンという管をお腹の中に1~2本入れておきます。
虫垂切除術は、右の下腹部を斜めに約3~4cm切って行う手術(開腹手術)が一般的でしたが、最近は腹腔鏡手術を施すことの方が多くなっています。
腹腔鏡手術は、全身麻酔をかけた上で、腹部に3~4箇所、5~12mmの穴をあけ、そこから腹腔鏡と鉗子(手術用の器具)を挿入しテレビモニターを見ながら行う手術です。
虫垂炎の炎症が比較的軽く、患者様自身に大きな合併症が無い場合には腹腔鏡手術をおすすめしています。腹腔鏡手術では手術痕が小さくて済む為、一般的に回復も早く入院期間も短くなります。
ただし、予想以上に虫垂炎の炎症が高度な場合は途中で腹腔鏡手術を断念し、通常の開腹手術に移行しなくてはいけない場合が稀にあります。
また、最初から炎症が高度であると予想される場合や、全身麻酔が危険と判断される場合(入院直前にご飯を食べて胃の中に食物や胃液が残存している場合も含む)には通常の開腹手術をお勧めしています。
最近では、腹腔鏡手術において、より手術による生体への影響を減らすことを目的に、臍に開けた1個の穴から手術を行う単孔式腹腔鏡下手術が様々な疾患に導入されています。
急性虫垂炎に対しても単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を導入する施設が増えてきており、長津田厚生総合病院でも2013年4月より本術式を導入しています。
従来の腹腔鏡下虫垂切除術より若干難しい手術ですが、傷が小さく痛みも少ないため適応のある患者様には単孔式腹腔鏡手術を提案致します。
開腹手術 | 腹腔鏡手術 | |
---|---|---|
入院期間 | 長い | 短い |
痛み | 強い | 弱い |
傷口 | 大きい | 小さい |
手術に伴う合併症
虫垂炎の手術は簡単な手術と考えられがちですが、一般的に10%前後の頻度で手術後の合併症がみられます。
出血 | 急性虫垂炎の手術で大量に出血し、輸血が必要になる場合は極めて稀です。しかし絶対無いとは言えず、その場合には輸血で対処します。ごく稀に術後にお腹の中で出血が始まることがあり、止血の為の再手術を行う場合があります。 |
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他臓器の損傷 | 手術中の腸管・膀胱・子宮・卵巣・卵管・尿管などの損傷ですが、極めて稀です。 |
皮下膿瘍 | 急性虫垂炎の手術では、既にお腹の中が細菌で汚染されている為に傷が化膿することが時にあります。術後すぐに分かることもありますが、1 週間くらいしてから炎症を起こし赤くなって膿が出てくることもあります。 |
遺残膿瘍 | 穿孔を伴う虫垂炎など、炎症のひどい場合の術後に起こりやすい合併症です。ドレーンを入れてもドレーンのない部分の炎症が再燃し、膿がたまって発熱などの原因になることがあります。通常抗菌薬の使用により治りますが、ドレーンの位置を変更したり、時には再手術でドレーンを入れ直したりする必要が生じる場合もあります。 |
糞瘻形成 | 虫垂断端から便が漏出してお腹の傷との間に交通ができる状態を言い、非常に稀な合併症です。長期絶食が必要となり、場合により再手術が必要になります。 |
その他予期せぬ偶発症もありえますが、これらの合併症が発症した際は、迅速に最善の治療を行うとともに、病状について患者様ご本人・ご家族の方に十分な説明を行います。
急性虫垂炎(盲腸)術後の経過
術後の経過は虫垂炎の程度によって異なります。比較的炎症が軽い場合には手術翌日から食事を開始できます。退院は手術後2~5日程度で可能です。
炎症が高度で、腹膜炎を起こしたり、穿孔して膿瘍を作っていた場合には、水分や食事の摂取の開始を少し遅らせます。
通常、術後2日~4日程度で食事を開始します。順調であれば術後5日から1週間程度で退院可能です。
合併症を起こした場合には、それぞれに応じた処置が必要になる為に入院期間が延びます。
特に問題がなければ退院後は1週間から2週間目に一度外来を受診していただき、傷やお腹の具合を診させていただきます。その後の定期的な外来受診は不要です。
急性虫垂炎(盲腸)・Q&A(よくあるご質問)
- 急性虫垂炎(盲腸)は、受診してその日に手術になるのですか?
- 虫垂炎の程度と患者様のご希望によりますが、その日に手術となることもあります。
- 急性虫垂炎(盲腸)の入院期間はどのくらいですか?
- 炎症の軽度のものであれば最短で手術後2日目に退院可能です。ただし、炎症の程度や痛みの治まり方により入院期間は延長します。
- 急性虫垂炎(盲腸)の手術後、日常生活で気をつけたほうがよいことは?
- 手術や麻酔の影響で腸の動きが万全ではないかもしれませんので、ウォーキングするなど無理のない程度に運動してください。
また、入院期間が短縮していることによって、退院後に前述の合併症がはっきりしてくることもありますので、何か異常を感じたらすぐに病院に連絡してください。
- 急性虫垂炎(盲腸)を発症しやすい年齢や性別はありますか?
- 若年者から高齢者まで幅広く発症するといわれ、男女差はみられません。ただし、10~20代の発症が若干多いといわれております。
また、高齢者の場合は大腸の悪性疾患を合併していることもありますので、早めに病院を受診し検査をうけてください。
- 急性虫垂炎(盲腸)の日帰り手術は可能ですか?
- 炎症のごく軽いものに対しては技術的には可能かもしれませんが、現在までのところ、当院では患者様の安全確保を優先するため行っておりません。
- 急性虫垂炎(盲腸)の手術後、再発することはありますか?
- 虫垂をきちんと手術で取り去ってしまえば、二度と再発することはありません。
- 急性虫垂炎(盲腸)の手術後、痛みはありますか?
- 傷の痛みと炎症のあった部分の痛みと2つの種類があると思います。傷の痛みは腹腔鏡下手術の方が、傷の小ささから軽いと思われます。
ただし、おなかのなかの痛みは炎症の程度となおり具合によるため各自の状況により異なると思われます。
- 急性虫垂炎(盲腸)と間違いやすい病気はありますか?
- 特に多いのは大腸(特に盲腸や上行結腸)の憩室炎です。虫垂炎同様に右下腹部痛をきたしますので注意が必要です。
- 急性虫垂炎(盲腸)を日常的に予防することは出来ますか?
- 明確な予防方法は特にありませんが、虫垂は大腸の一部ですので、できるだけ便秘や下痢をきたさないように、規則正しい食事と排便を継続しストレスのかからない生活をしていくことが大切だと思われます。
消化器病センター(外科)のご案内
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